ブラデントン(フロリダ州)発 — スプリングトレーニング初期のメディアインタビューで、オリオールズの菅野智之は英語で質問を受けると、通訳の櫻井優人が日本語に訳すのを待つのが常だった。しかし、水曜日のオープン戦初登板後、2つ目の質問には通訳を必要としなかった。
「マウンドに上がった時、緊張しましたか?」
「No」
35歳の右腕は、英語でそう即答し、少し笑みをこぼした。
セントラル・リーグMVPを3度、沢村賞を2度受賞し、NPBの読売ジャイアンツで8度のオールスターに選出された菅野が、ついにMLBの打者に挑む時が来た。その意気込みを示すかのように、スプリングトレーニング初登板で力強い投球を披露した。
オリオールズが7-3で敗れたこの試合で、菅野は2回無失点。28球を投げ、2安打、1四球を許したものの、要所を締める投球を見せた。
この登板では、持ち球6種類すべてを試し、特にチェンジアップ(7球)、カッター(6球)、フォーシーム(6球)、カーブ(5球)を多投。さらにシンカー(3球)とスイーパー(1球)も交えて、MLBの打者への対応を探った。
こんにちは、トモ!
— Baltimore Orioles (@Orioles) February 26, 2025
Hi, Tomo! pic.twitter.com/sTYnP3cc6v
菅野のフォーシームの平均球速は92.1マイル(約148.2キロ)で、最速は93マイル(約149.7キロ)を記録した。(Statcast調べ)
スプリングキャンプ序盤、ベテラン捕手ゲイリー・サンチェスはブルペンでの投球を見て、菅野の制球力と抜群のコントロールを高く評価していた。さらに、正捕手アドリー・ラッチマンも、初のライブBP(実戦形式の打撃練習)で菅野の球を受けた際に、同じような感想を述べていた。
その制球力は、水曜日の登板でも存分に発揮された。
初回、菅野はわずか6球でピッツバーグ打線を封じた。
先頭打者トミー・ファムに三塁への内野安打を許したものの、続くブライアン・レイノルズを4-6-3のダブルプレーに仕留める。
そして、アンドリュー・マカッチェンには初球の90.9マイル(約146.3キロ)のシンカーを投げ、ショートゴロに抑えてこの回を締めくくった。
この回、菅野が投じた6球はすべてストライク。
キャッチャーのサンチェスに向かって、まるで“ゾーンの端を塗るような”正確な投球を見せた。
「彼はキャリアを通じて、ずっとこういう投球をしてきたんだ。」と、サンチェスは通訳のブランドン・キノネスを介して語った。
「これまで僕が受けてきた日本人投手はみんな、ストライクゾーンを攻める点で共通している。彼らはどんな球でも、狙ったところに正確に投げられる。そして、菅野もまさにそのタイプの投手だよ。」
今シーズン、菅野が対戦する打者の多くは初対戦となる相手だ。しかし、彼には2017年のWBC準決勝で対戦した選手が1人いた。
アンドリュー・マカッチェン。当時、菅野はマカッチェンを2打数1安打に抑えたが、試合はアメリカが日本に2-1で勝利。今回の対戦は、当時ほどの重圧はなかったが、菅野が速攻で“リベンジ”を果たした形となった。
「少し懐かしい気持ちになりました。」と、菅野は通訳の櫻井を通じて語った。
2回はやや苦しむ場面もあった。アダム・フレイジャーにセンター前ヒットを許し、さらにイザイア・カイナー=ファレファに7球粘られた末に四球を与えた。しかし、最後はダリック・ホールをセカンドゴロに仕留め、ピンチを切り抜けた。
この日、菅野は28球を投げ、そのうち17球がストライク。相手打線に強い打球をほとんど打たせなかった。
Statcastのデータによると、打球速度が100マイル(約161キロ)を超えたのは2球のみ。ホールの102.5マイル(約165キロ)と、レイノルズの101マイル(約162キロ)の2本だったが、いずれもゴロアウトになった。
試合後、オリオールズのブランドン・ハイド監督は菅野のピッチングを絶賛。
「とにかくストライクをたくさん投げていた。内容は本当に素晴らしかったね。直球のコントロールがよく、スプリットも非常にいい球だった。まったくブランクを感じさせなかったよ。」
「彼は複数の球種を精密にコントロールできる投手だ。そして、もしボールになったとしても、ほとんどはゾーンのギリギリ。見ていて本当に楽しい投手だよ。」
スプリングトレーニングでの登板は、MLBへの適応を進める貴重な機会となる。2025年シーズンに向け、1年総額1300万ドルの契約を結び、オリオールズのローテーション入りを目指す菅野にとって、MLB仕様の環境に慣れることは不可欠だ。
12年間の日本でのキャリアの中で、PitchCom(投手と捕手がリードを伝える電子機器)を使った経験はほとんどなく、ピッチタイマーにも馴染みがない。それだけに、グレープフルーツリーグ開幕前のライブBP(実戦形式の打撃練習)では、そうしたMLB独特のルールに慣れるための大事な練習を積んできた。
また、オリオールズの捕手陣との関係構築も進めており、レギュラーシーズンを戦ううえでのコミュニケーションも深まっている。
「スプリングトレーニングの間、キャッチャーとはとてもいいコミュニケーションが取れているよ。」と、菅野は語る。
「今日も試合前や試合中にたくさん話をした。」
では、MLBデビューに向け、次の課題は何か?
サンチェスによると、水曜日の登板では「すべての球種を試す」ことが主な目的だったという。実際の試合でどの場面でどの球種を使うかを考えるのではなく、まずは持ち球を一通り投げることを優先した。しかし、今後はより実戦を意識した配球に取り組むことになる。
「今は1球1球を大事に投げている段階だけど、今後はピッチシーケンス(配球)を意識していきたい。」と菅野は語った。
そして、次回登板でも彼が緊張することはないだろう。
引用元:mlb.com