完璧な野球の指標というものは存在しませんが、「攻撃力」を手っ取り早く表す統計として、OPS(出塁率+長打率)に勝るものはなかなかありません。
OPSは、「塁に出る能力(出塁率)」と「強く打つ能力(長打率)」という、打撃において最も重要な2つの要素を同時に測ることができる、非常に便利な指標です。通算OPSの歴代トップ5には、ニグロリーグの伝説ジョシュ・ギブソン、ベーブ・ルース、テッド・ウィリアムズ、ルー・ゲーリッグ、そして同じくニグロリーグのレジェンドであるオスカー・チャールストンが名を連ねています。OPSがいかに優れた指標かがわかるでしょう。
木曜日時点でのMLBのOPSトップ25を見てみると、アーロン・ジャッジ、フェルナンド・タティスJr.、カイル・タッカー、マニー・マチャドといったおなじみのスター選手が並んでいます。しかし、今シーズン開幕前にはそこまで注目されていなかった、いわゆる“伏兵”たちの名前も並んでいます。
以下は、そんなOPSトップ25入りを果たしている、予想外の活躍を見せている7選手(2025年シーズン)です。数値はすべて水曜日の試合終了時点のものです。
- ジョナサン・アランダ(レイズ/一塁手)
OPS:1.193(MLB全体3位)
そう、あのジョナサン・アランダ――現在、OPSでアーロン・ジャッジとピート・アロンソに次ぐ、メジャーで3位につけている「野球界屈指の強打者」の一人です。
メキシコ出身の26歳で、2015年にレイズと契約して以来、今季でメジャー4年目。ですが2025年開幕前の時点で、通算110試合しか出場していませんでした。
それが今季、打率.396を記録し、わずか16試合で3本塁打と7本の二塁打を量産。平均打球速度は95.6マイル(約153.9km/h)で、これはメジャー全体でも98パーセンタイルに入る破壊力です。
まさに、あらゆる方向に打球を飛ばしまくっています。
躍進の鍵は、右投手への対応力です。左打者のアランダは、これまで左投手には非常に苦戦しており(通算OPS.462)、代わりに右投手には強さを発揮(通算OPS.797)。
レイズはこの特性を活かし、今季も左投手との対戦はわずか7打席に抑えており、今後も右投手専用の「プラトーン起用」が続く見込みです。
つまり、得意な右投手相手に、アランダが全力で打ちまくる――それが、今の爆発的な成績につながっています。
- タイラー・ソダーストロム(アスレチックス/一塁手)
OPS:1.101(MLB全体5位)
2020年ドラフト1巡目(全体26位)でアスレチックスに指名されたソダーストロムは、2023年にメジャーデビューするも打率.160と苦戦。しかし2024年には着実にステップアップを遂げ、今季2025年はついに本格ブレイクの様相を見せています。現在、メジャー最多となる8本塁打を放っており、OPSでも堂々の全体5位にランクインしています。
彼の好調ぶりは「一流打者の型」ともいえるもので、速球をしっかり引っ張って角度をつけて打ち上げており、加えて三振率も大きく改善。
三振率は2023年の31.2%から、2024年には24.9%、そして今季は18.4%まで下がっており、確実性のあるスイングに変わってきています。
現在のアスレチックスには一塁手が“多すぎる”状況で、チームにもマイナーにも候補が豊富(トッププロスペクトのニック・カーツも一塁手で、近く昇格が見込まれています)。
それでも、ソダーストロムはもはや外せない存在。アスレチックスは彼のために、今後一塁手以外のポジションでも出場機会を模索していくことになりそうです。
それほどまでに、彼のバットは今のチームに不可欠な武器となっています。
- マイク・ヤストレムスキー(ジャイアンツ/右翼手)
OPS:1.032(MLB全体9位)
ここ7シーズンでジャイアンツが様々な変化を遂げる中、「リトル・ヤズ」ことマイク・ヤストレムスキーは常にそこにいました。成績に波があることも否めませんが、今季はこれまでで最も輝かしい数字を残しています。
三振を減らし、四球を増やし、出塁率はキャリア最高の.444を記録中。打線の核として機能しており、意外にもジャイアンツ打線は1試合平均得点でMLB全体3位(5.6点)と好調です。
これまでの7年間、周囲はずっと「いつになったらジャイアンツはスター選手を補強するのか?」と問い続けてきました。しかし今、そのスターは実はずっとそこにいたのかもしれません。
そして実は、ジャイアンツにはもう一人のスターがいます――同僚の外野手イ・ジョンフ。OPSではヤズをわずかに上回る1.042を記録しています。
- ベン・ライス(ヤンキース/指名打者)
OPS:1.003(MLB全体12位)
「フアン・ソトがいなくても大丈夫?」――もちろん、ヤンキースはソトを手放したくはなかったでしょう。しかし、今季のヤンキースで最も驚きを与えているのは、実はベン・ライスの台頭です(あの強烈なバットも話題ですが)。
2024年に50試合で打率.171と苦しんだライスは、今季1番打者として覚醒。すでに5本塁打を放ち、打球速度は今やチームメイトのアーロン・ジャッジに匹敵するほど。なんと盗塁も2つ記録しています。
そのスムーズなスイングは、MLBトップの得点力(1試合平均5.9得点)を誇るヤンキース打線にぴったり。特にジャンカルロ・スタントンが離脱している今、ライスはまさにチームに必要とされていた存在です。
- スペンサー・トーケルソン(タイガース/一塁手)
OPS:.988(MLB全体13位)
これはまさに、タイガースとそのファンが長年待ち望んでいた姿です。
2020年ドラフト全体1位指名のトーケルソンは、プロ入り後たびたび低迷を経験し、「そろそろ見切られるのでは?」とさえ囁かれる時期もありました(2年前に31本塁打を放ちながら、昨年は再び大きく失速)。
しかし今季は、“なぜ彼が全体1位だったのか”を示すような活躍。すでに6本塁打を記録し、得点力不足に悩むタイガース打線の中で際立っています。
彼はこれまで毎年のようにスイングの修正を試みてきましたが、ようやくフィットする形にたどり着いたようです。かねてより「波の激しい打者」として知られ、調子の良い時期には「ついに覚醒か?」と期待させてはまた沈む……そんな繰り返しでしたが、今回は本当に“本物”かもしれません。
- ブレンダン・ドノバン(カージナルス/二塁手)
OPS:.965(MLB全体15位)
ドノバンはこれまで、カージナルスの“万能ツール”として知られてきました。広角に打ち分ける打撃、出塁能力、そして求められるあらゆるポジションをこなす守備力でチームに貢献してきました。しかし今シーズン、彼はひとつ上のレベルに到達しています。
打率は.380でメジャー3位、ヒット数では27本でアーロン・ジャッジと並んでMLBトップタイ。しかもこの成績を、二塁・遊撃・左翼・DHと様々なポジションでスタメン出場しながら残しているのです。
現在は遊撃手のメイソン・ウィンが故障者リスト入りしているため、ドノバンがショートを務めています。昨年はわずか1試合しか守らなかったポジションですが、今のところ非常に安定したプレーを見せています。
すでにユーティリティ部門でゴールドグラブ賞を受賞しているドノバン。今季は初のオールスター出場が見えてきました。
- ヘラルド・ペルドモ(ダイヤモンドバックス/遊撃手)
OPS:.908(MLB全体23位)
ペルドモは“まったくの無名”というわけではありません。実際、2023年にはナ・リーグのオールスターにも選出されています。ただ、今季のような活躍はこれまでに見られませんでした。
今シーズン開幕直前に、ペルドモはダイヤモンドバックスと4年4,500万ドルの契約延長に合意しました。そしてその投資にふさわしいプレーを見せています。今のアリゾナ打線はリーグ屈指の攻撃力を誇っていますが、その中でも彼の貢献度は非常に高いです。
チームが彼に求めているのは「出塁」──そして、彼はそれをしっかりと実行しています。出塁率は.418でMLB全体12位。とにかくボールを前に飛ばし続け、14四球に対して三振はわずか5回。これは四球率で93パーセンタイル、三振率では98パーセンタイルという驚異的な数字です。
さらに注目すべきは長打力の向上。すでに今季3本塁打を記録しており、これは昨年1年かけて打った本数に並びます(しかも今季はまだ80試合以上少ない時点で)。自身のキャリアハイである6本塁打(2023年)に、すでに半分まで迫っています。
出塁とコンタクトを重視するスタイルに加えて、長打の芽も見えてきた今、ペルドモはアリゾナの攻撃陣におけるキープレーヤーの一人として確固たる地位を築いています。
引用元:mlb.com