2025年MLBシーズンが開幕して6週間が経過し、伝統的な“メモリアル・デー(5月最終月曜)”の判断基準が近づく中、サイ・ヤング賞レースも徐々に輪郭を帯びてきました。
ほとんどの先発投手が月曜時点で8~9登板を終え、救援投手も15試合以上に登板している今、これまでの成功を「単なる好スタート」や「運の良さ」と片付けるのは難しくなっています。つまり、いよいよ本格的に結果を評価すべき時期に入ったということです。
MLB.comによる今季初のサイ・ヤング賞投票では、ア・リーグ、ナ・リーグともに投手陣の層の厚さが浮き彫りになりました。今回、MLB専門家37人に「今季終了時点でのサイ・ヤング賞受賞者は誰になると思うか」をアンケートし、これまでの成績+今後の期待値の両方を加味して投票してもらいました。
投票では、ア・リーグ17名、ナ・リーグ18名の計35名の投手が1票以上を獲得。
各投票者は各リーグの上位5人を選び、順位に応じて1位=5点、2位=4点、以下3→2→1点とポイントが付与されました。
(以下の成績はすべて現地日曜時点)
アメリカン・リーグ
1位:タリク・スクーバル(タイガース)[19票が1位票]
昨季、投手三冠&満票でのサイ・ヤング賞受賞という圧倒的なシーズンを送ったスクーバルですが、2025年もそれに近いレベルの支配力を見せています。
- 防御率:2.08(ア・リーグ上位10位)
- 投球回数:47回2/3(上位10位)
- 奪三振数:60(上位5位)
- WHIP(1イニングあたりの被出塁数):0.88(上位5位)
- 奪三振率(K/9):11.33(リーグ1位)
さらに、ここ6試合連続で2失点以内に抑えており、安定感と支配力を兼ね備えた内容で、今季も再びサイ・ヤングの最有力候補として評価されています。
2位:マックス・フリード(ヤンキース)[1位票13票]
マックス・フリードは、今オフにヤンキースと結んだ8年総額2億1800万ドルの大型契約に対して、まさに期待以上の活躍を見せています。
- 6勝0敗という成績はMLB全体トップ
- 防御率1.05は規定投球回到達者の中でリーグ1位
- WHIP:0.91/被打率:.187もア・リーグ上位5位以内
- 今季これまでに自責点わずか6点
そして何よりも特筆すべきは、彼が先発した試合でヤンキースは全勝(8勝0敗)という事実。まさに「これ以上の結果は存在しない」と言えるほどのパーフェクトなシーズン序盤を過ごしています。
3位:ギャレット・クロシェ(レッドソックス)[1位票3票]
ヤンキースにおけるフリードと同様に、今季レッドソックスに加入したクロシェも、球団が求めていた通りの働きを見せています。
- 9先発で防御率1.93
- 65奪三振はア・リーグ2位(K/9=10.45はリーグ6位)
- 被打率:.192と打者を完全に抑え込んでおり、
- 9試合中8試合で2失点以下という驚異的な安定感
また、ユーモアを交えて言えば、「登板中に編み物をしているように冷静」との声もあり、“登板中に編んだセーターの数はリーグトップ”という冗談も票のコメント欄で飛び交うほど、彼のクールさと支配力が際立っています。
4位:ハンター・ブラウン(アストロズ)[1位票2票]
ハンター・ブラウンは、アストロズにとってまさに今季最大の“発見”ともいえる存在です。昨年(ヒューストンでの3年目)からフォームや投球スタイルの改良に取り組み、その成果が2025年には文句なしの数字として表れています。
- 6勝はMLBトップタイ
- クオリティ・スタート7試合もMLBトップタイ
- FIP(真の防御率)1.86はMLB全体1位
- 防御率1.48/被打率.180はア・リーグ3位
- bWAR(Baseball-Reference版WAR)2.1はア・リーグ投手1位
投球の安定性、効率性、そして指標面での支配力も非常に高く、完全にリーグを代表するエース格へと成長しています。
5位:ネイサン・イオバルディ(レンジャーズ)[1位票なし]
今季でメジャー14年目となる35歳のベテラン右腕イオバルディですが、キャリア最高の投球を見せていると言っても過言ではありません。
- 防御率1.78はア・リーグ5位(※自己ベストを大きく更新中)
- WHIP:0.75はMLBトップ(※昨季自己ベスト1.11を大幅に更新)
- 今季ア・リーグで唯一の完封勝利投手
- 与四球5個は、ツインズのジョー・ライアン、タイガースのスクーバルと並びMLB最少
- 被打率.186は、これまでのキャリアの中で断トツの自己最高値
1位票こそなかったものの、極めて効率的で無駄のない投球内容が高く評価され、ランキング5位に食い込みました。経験と技術の融合が光る、まさに“熟練の職人技”です。
その他の票獲得選手(ア・リーグ)
コール・ラガンス、ジェイコブ・デグロム、クリス・バビッチ、ブライアン・ウー、ケイシー・マイズ、クリス・バシット、セス・ルーゴ、タイラー・マーリー、アンドレス・ムニョス、カルロス・ロドン、エマヌエル・クラセ、ジョー・ライアン
ナショナル・リーグ
1位:山本由伸(ドジャース)[1位票22票]
2024年はルーキーイヤーながらやや波のある内容と故障の影響もあって評価が分かれた山本由伸ですが、2025年はその潜在能力を完全に開花させ、**“試合の流れを変える真のエース”**としてチームを牽引しています。
- 防御率1.80はナ・リーグ1位
- WHIP:0.98、被打率:.188もそれぞれリーグトップ5
- 最大の武器は、空振り率45%前後を誇るスプリット。これにより打者は被打率.086と完全に翻弄されており、メジャーでも“打てない球”として広く認識されつつあります。
どれだけ支配的かというと、4月4日〜5月2日の5先発で自責点はわずか1点。まさに別次元の内容で、ナ・リーグのサイ・ヤングレースを一歩リードしています。
2位:ポール・スキーンズ(パイレーツ)[1位票3票]
2024年のナ・リーグ新人王として圧倒的な存在感を見せたスキーンズは、今季の開幕前からサイ・ヤング賞の本命候補として注目されていました。
2025年ここまではやや期待を下回る内容ではあるものの、“特別なシーズン”になるだけの要素は十分に揃っています。
- 平均球速98マイル近いフォーシームは依然として健在
- WHIP:0.95(NL3位)
- 被打率:.192(NL4位)
打者を圧倒するパワーと指標の安定感はしっかり残っており、“すべてが噛み合えば再び支配的な投球に戻るのは時間の問題”と言えるでしょう。
3位:ローガン・ウェブ(ジャイアンツ)[1位票3票]
ベテラン右腕ローガン・ウェブは、2025年シーズンに入りキャリアでも屈指の好投を続けています。
- 65奪三振はナ・リーグ3位
- 防御率2.60は規定投球回到達者の中でNL7位
この2つの数字は、特に注目に値します。というのも、ウェブが開幕から9先発以内で65奪三振以上、防御率2.60以下という数字を残したのはキャリア初だからです。
直近5先発のうち4試合で2失点以下と安定感も光り、さらに指標面ではFIP(真の防御率)1.99でナ・リーグ1位。
「見た目」だけでなく「内容」でも今季の投球はリーグ屈指のレベルとなっています。
4位タイ:ハンター・グリーン(レッズ)[1位票2票]
2024年にオールスター選出を果たしたハンター・グリーンは、その勢いを2025年にも持ち込み、さらなる才能の開花を印象づけています。
キャリア初期には故障や制球難による不安定さも見られましたが、今季はすべてが噛み合った投球を見せており、現在は鼠径部の張りによるIL入り中ではあるものの、それまでの内容は十分サイ・ヤング級でした。
- WHIP:0.81(ナ・リーグ1位)
- 被打率:.175(NLトップ)
- 奪三振:61(NL5位)
- 奪三振率:35%以上(MLB屈指)
- 四球率:4.5%(昨季の半分近くまで改善)
健康さえ戻れば、NLトップクラスのパワーアームとして再びレースの中心に食い込む存在です。
4位タイ:ザック・ウィーラー(フィリーズ)[1位票4票]
ザック・ウィーラーは今季、MLB最多の58イニングを投げており、233人の打者と対戦しているというタフネスぶりを発揮。2025年も変わらずリーグ屈指の安定感を誇る先発投手であり続けています。
- WHIP:0.91(ナ・リーグ2位/グリーンに次ぐ)
- 奪三振:74(MLB全体2位。1位はマッケンジー・ゴアの75)
- 直近の安定感:4月中旬以降、毎試合6回以上投げて自責2点以内という驚異の安定ぶり
- さらに、日曜日の登板ではガーディアンズ相手に7回無失点
“エース級の働き” ではなく、”エースそのもの” のような内容が続いており、投球量・効率・結果のすべてにおいてサイ・ヤング候補として十分な評価を受けています。
その他の得票者(ナショナル・リーグ)
ヘスス・ルサルド(1位票1票)、マイケル・キング(1位票1票)、ニック・ピベッタ、千賀滉大、マッケンジー・ゴア、フレディ・ペラルタ、クリス・セール、グリフィン・キャニング(1位票1票)、ブランドン・ファット、クレイ・ホームズ、ザック・ギャレン、ディラン・シース、ロベルト・スアレス
これらの投手たちもそれぞれのチームで好調なシーズンを送り、票を集めるに値する内容を見せています。今後の数か月でサイ・ヤングレースの構図がどう変化するか、引き続き注目です。
ジェイソン・フォスター:MLB.com記者
引用元:mlb.com