メッツのピート・アロンソがここまでかつてないパフォーマンスを披露


ピート・アロンソの価値とはどれほどのものか?

それを正確に見極めるのは、この冬のFA市場においても難しい問題だった。確かに彼は常に頼れる長距離砲であり、2019年のメジャーデビューから2024年までの間に放った本塁打226本は、アーロン・ジャッジの232本に次ぐ数字だった。そして、ホームランダービーを2度制した実績も見逃せない。
だが、今オフにFA市場で各球団が彼を評価するうえで、懸念材料も少なくなかった。

たとえば、一塁手として土手からのショートバウンドをすくう技術には長けているものの、守備全体ではプラス評価とは言い難い。走塁でも機動力はなく、俊敏さに欠ける。そして、確かにホームランは打つが、昨年は三振率が自己ワーストに近い24.7%まで上昇し、打率は.240と平凡、本塁打もフルシーズンでは自己最低の34本にとどまった。さらに2025年には30代に突入するという事実も、長期契約のリスクとして懸念されていた。すでに“衰え期”に入り始めているのでは?という見方すらあったのだ。

結局、アロンソはこれまで所属してきた唯一の球団であるメッツに残留したものの、その契約は2年契約で、今季終了後にオプトアウト(契約破棄)できる内容だった。つまり、アロンソにとっては「今季、自身の価値を証明し、より高額・長期の契約を勝ち取るチャンス」が与えられた形だ。

そして、開幕から6週間が経った今、その価値は確実に証明されつつある。

アロンソは現在、打率.328、出塁率.450(ナ・リーグ1位)、長打率.635(同1位)を記録。長打23本はコービン・キャロルと並びリーグ最多。もともと高水準だったバレル率とハードヒット率も、今季はさらにスケールアップしている。

FanGraphsのWARは、今季すでに昨年の通算(2.1)を上回る2.2に到達(昨年は162試合出場)。wRC+は201で、ジャッジに次ぐメジャー全体2位。3月+4月の通算wRC+は213で、月間100打席以上においては少なくとも2002年以降のメッツ選手で最高値となっている。

ここからは、アロンソが「ただのスラッガー」から「恐れられる総合打者」へと進化した理由をいくつか見ていこう。

賢く、そして積極的になった

最も危険な打者とは、振るべき球と見逃すべき球を的確に判断できる者――今のアロンソはまさにそれだ。今季の彼の三振率は17.2%、四球率は15.4%と、どちらもキャリア最高。これはフアン・ソトにも匹敵する数字であり、2024年から2025年への劇的な変化を物語っている。

チェイス率(ゾーン外の球に手を出す割合)と空振り率も年々低下しており、今季はそれぞれ24.6%、21.6%と、リーグ平均を大きく下回るキャリアベストの数値を記録。メジャー初期は30%前後だったことを考えると、飛躍的な改善だ。

だが、この「選球眼の良さ」は、決して「消極性」を意味するものではない。アロンソはここ2年、ストライクゾーン内のスイング率が61~62%だったが、今季は65.3%まで回復。過去最高(2021~22年の70%)には届かないものの、ゾーン内の好球を積極的に振っていく姿勢が数字にも表れている。そして、こうしたスイングの成果は実際に結果として現れている。

アロンソのゾーン内スイング結果

年度打率長打率wOBAハードヒット率
2025.376.733.47361.4%
2023-24.283.613.37448.4%

このように、アロンソはただの「ホームランバッター」から、投手にとって最も警戒すべき「総合的な脅威」へと進化を遂げている。今季の彼は、打席でのあらゆる判断・選択・結果において、その価値を十二分に示しているのだ。


2ストライクからが本当に危険

これまでのシーズンでは、ピッチャーがアロンソを2ストライクに追い込めば、ある程度安心できる場面もあった。2019年から2024年の間、アロンソは2ストライク時の打率がわずか.162で、長打率や予測長打率(xSLG)が.400を超えたことは一度もなかった。2ストライクからの打席のうち、実に44.7%が三振で終わっていたのだ。

しかし、2025年のアロンソはまったく違う。

この三振率は今年、29.9%まで激減。さらに、2ストライク時の空振り率も15.4%とキャリア最低で、過去のどのシーズンよりも8ポイントも低い。
そして、三振や空振りの代わりに、アロンソは“轟音”を響かせるような強烈なコンタクトを量産している。

今季、アロンソが放った9本塁打のうち8本が2ストライクから。これは昨季の合計(11本)にあと3本と迫る数字で、メジャー全体トップでもある。その結果、2ストライク時の長打率は.628と、同条件で50打席以上の選手の中でリーグ最高。予測長打率(xSLG)も.625と、実際の成績と一致する優れた内容となっている。

2025年 2ストライク時の長打率ランキング

※2ストライクでの打席が50以上の選手対象

  1. ピート・アロンソ:.628
  2. アレックス・ブレグマン:.595
  3. 大谷翔平:.566
  4. カイル・タッカー:.508
  5. ジョシュ・スミス:.500

どんな球種にも対応できる打者へ

上記の映像クリップで紹介された本塁打を見ただろうか?
アロンソがシティ・フィールドの2階席まで運んだあの443フィート弾は、今季最長の打球であり、さらに言えば、昨年まで苦しめられていたスライダーを打ち砕いた象徴的な一打でもある。

2024年、少なくとも75打席をスライダーで終えた打者は140人いたが、アロンソはその中でも打率.145、長打率.239と、いずれも下位10位内に低迷していた。スライダーに対する117打数で41三振、ハードヒット率はわずか29.1%、xwOBA(予測加重出塁率)は.239と、非常に苦手としていた球種だった。

ところが2025年のアロンソは違う。
スライダーで打席を終えた29打席で打率.292、長打率.583を記録。三振率は33.1%から20.7%に減少し、ハードヒット率は55.6%へと大幅上昇。xwOBAは.463にまで跳ね上がり、これは全打者中3位(20打席以上対象)の好成績だ。

この好結果は、アロンソが「どんな球種にも対応できる」打者に進化したことを示している。
スライダー、カーブ、スウィーパー、スラーブ、ナックルボールといったブレーキングボール全体に対するxwOBAは.409と、2022年に記録した自己ベストの.352を大きく上回っている。

さらに、アロンソは速球系に対して.512、オフスピード系に対しても.455のxwOBAを記録しており、この3つの球種カテゴリーすべてでxwOBAが.400を超えている唯一の選手のひとりとなっている(※20打席以上の条件あり)。もう一人の該当者は、レッドソックスの外野手ウィリー・アブレイユだけだ。

ちなみに、今季規定打席到達者の中でxwOBAが.400を超えている選手はわずか21人。
アロンソは今、ほぼすべての球種に対して“エリート級”の結果を残せる打者になっている。


「Aスイング」をより頻繁に解放している

ストライクゾーンを的確に把握し、どんなカウントや球種でもヒットを打てる打者になれば、毎スイングで可能な限り大きなダメージを与えようとするのは自然な発想だ。そして、今のピート・アロンソはまさにそれを実践しているように見える。

アロンソはもともと打席で大きなパワーを生み出す打者だったが、平均バットスピードは昨季の75.2マイルから今季は76.4マイルへと上昇し、これはメジャー全体で10番目に速い数値である。さらに、バットスピードが75マイル以上のスイングの割合(ファスト・スイング率)も、51.8%から63.9%へと大幅に増加している。

最近アロンソは、このバットスピードの向上について「ただ“ムダのない動き”をしているだけ。新しいことをしているわけじゃなくて、余計な動きを省いて効率的にした結果として、こうした変化が起きているんだ」と語った。またスプリングトレーニング中には、『The Athletic』のインタビューでスイングを効率化するための具体的な取り組みについても話していた。

なお、この「ファスト・スイング率」が高い選手の中には、オニール・クルーズ、ジョーダン・ウォーカー、ジョー・アデル、ジョンケンシー・ノエルといった、全力スイングを特徴とする打者たちも名を連ねている。彼らはハードスイングの代償として三振も多いタイプだ。そしてかつてのアロンソも同じだった。

だが今のアロンソは違う。

選球眼の改善、2ストライク時のアプローチの向上、球種対応力の向上、そして破壊的なスイングの質――これらすべてを兼ね備え、“エリート打者”の領域に到達しつつある。


では、ピート・アロンソの価値はどれほどなのか?
その答えは、「打撃による得点貢献(Batting Run Value)」でナ・リーグ最高の打者であることが物語っている。

そして――このパフォーマンスを維持し続ければ、彼はナショナル・リーグMVPの最有力候補になり得る。

アンソニー・ディコモ:MLB.comメッツ担当
ブライアン・マーフィー:MLB.com記者
引用元:mlb.com

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