MVPを一度でも獲得すれば、その称号は一生ものです。引退後も「MVP」とサインの横に添える選手は何人もいます。(ただし、もし殿堂入りすれば、「MVP」は「HOF(殿堂入り)」に置き換わります。)しかし、偉大な選手の中にはMVPを一度も獲得していない人もいることに驚かされます。デレク・ジーター、マイク・ピアッツァ、トニー・グウィン、オジー・スミスなどです。完璧な条件が揃うことがなかっただけなのです。そもそも、史上最高額の契約を結んだフアン・ソトですら、まだMVPは獲得していません。
一方で、その“完璧な条件”が揃う年というのも確かにあります。今季、素晴らしいスタートを切っており、実績的にもいずれMVPを獲得してもおかしくないのに、まだその栄冠に手が届いていない選手たちが何人かいます。以下に紹介するのは、まさにその「今年こそは」と期待される選手たちです。このリストがナ・リーグ寄りなのは、アーロン・ジャッジの存在が大きいからとも言えるでしょう。また、ピート・クロウ=アームストロングやジェームズ・ウッドのような突如ブレイクした新星ではなく、ある程度メジャーで実績のある選手に絞っています。(名前はアルファベット順で掲載)
ピート・アロンソ(一塁手、メッツ)
■ 最高順位:7位(2019年)
長打力で知られるアロンソが、もし打率.300を超える打者になったらどうなるか…?しかもパワーはそのままだとしたら?それが今シーズンの彼の姿です。今オフ、メッツを離れる可能性も取り沙汰されましたが、今季は開幕から絶好調。出塁率.408はキャリア最高を大きく上回り、健康を維持すれば打点王も狙えるポジションにいます。自己最多打点131を超える可能性も十分。来年フリーエージェントになるこのタイミングでの好成績は、まさに“持ってる男”かもしれません。
アレックス・ブレグマン(三塁手、レッドソックス)
■ 最高順位:2位(2019年)
今オフ、レッドソックスはブレグマンを半ば偶然のように獲得した形でした――カブスが大型契約を提示しなかったこともありましたが――結果的に「掘り出し物」となりました。実際、今季ここまでボストンで最も活躍している選手と言っても過言ではありません。そして、その成績は2019年のキャリア最高シーズン以来の好調ぶりです。OPS(出塁率+長打率).955は2019年以来の数字で、それ以降のどのシーズンよりも上回っています。ブレグマンがMVPを狙うには、チームの勝率がもっと上がる必要があるかもしれませんが、それも十分に現実的な範囲です。どうやらフェンウェイ・パークは彼にとって理想的な球場であり、今のレッドソックスに必要なベテランリーダーとしても完璧な存在なのかもしれません。特に、さまざまな“騒動”が続く今のチームには…。
コービン・キャロル(右翼手、Dバックス)
■ 最高順位:5位(2023年)
「2年目のジンクス」など、今となってはまったくの過去の話です。キャロルは、ここ数年Dバックスのファンが見慣れてきたあの“何でもできるプレースタイル”を今季も存分に発揮しており、むしろそれ以上のものを見せています。特に今季は長打力が大幅に向上しており、2023年に25本、2024年に22本だった本塁打は、すでに今季14本を超えています。しかも、それでいて出塁率や俊足といった彼本来の武器はまったく失われていません。守備でも安定しており、厳しい地区でやや苦戦しているチームにとっては、まさに“いなくてはならない存在”です。まだMVPを獲得するにはやや早いかもしれませんが、少なくとも彼がいなければDバックスの戦いは成り立たない――それだけは確かです。
フランシスコ・リンドーア(遊撃手、メッツ)
■ 最高順位:2位(2024年)
リンドーアはこれまでキャリアで6度もMVP投票のトップ10に入っており、昨年は2位に輝いています。(その時にMVPを阻んだのは、あの大谷翔平のシーズンでした。)30代に突入し、あと何回MVPを狙えるチャンスがあるのかという声もありますが、彼は今なおメッツの「顔」であり、間違いなくチームを象徴するリーダーです。
そして今季も素晴らしいシーズンを送っており、打率.279/出塁率.347/長打率.463というスラッシュラインはいずれもキャリア上位に入る数字です。ナ・リーグで安打数トップ10にも入っており、攻守両面での貢献度は文句なし。加えて、彼の人柄も手伝って、記者票で“感情的な支持”を集めることも間違いありません。記者たちは彼を愛してやまない存在であり、それは当然のことなのです。
ちなみに、この記事でメッツから名前が挙がっているのはリンドーアとアロンソの2人ですが、今や球界最高額契約を結んだフアン・ソトの名前はここにはありません。とはいえ、シーズンが進めばその状況も変わるかもしれません。
フェルナンド・タティス Jr.(右翼手、パドレス)
■ 最高順位:3位(2021年)
2022年の出場停止処分の後、タティスが再びMVP級の選手になれるのか、疑問に思った人もいたかもしれません。「かつて誰もが期待していたスーパースターに戻れるのか?」――その答えは、間違いなく「イエス」です。
実際、タティスは今季ナ・リーグでWAR(Wins Above Replacement)トップを走っており、メジャー全体でもアーロン・ジャッジに次ぐ2位。右翼という新天地はまさに彼にとって完璧なポジションで、守備力では球界随一とも言われる存在です。
打撃でも長打力・出塁率ともに優れ、さらに盗塁も復活。今年は「30本塁打30盗塁」のシーズンになる可能性も十分あります。そして、パドレスは今季のポジティブなサプライズの一つ。その中心にいるのがタティスです。かつての「期待通りのスター」ではなく、今や「それ以上の存在」と言えるでしょう。
カイル・タッカー(右翼手、カブス)
■ 最高順位:5位(2023年)
「なぜタッカーはMVP投票で5位以上に入ったことがないのか?」――その疑問こそ、彼がこれまでいかに過小評価されてきたかを物語っています。昨年も、故障がなければアストロズでトップ3入りは確実だったという声もあるほど。
今季はカブスに加入し、その打線をリーグ有数の強力打線へと押し上げた主役の一人。FAを控えた年であることも相まって注目度は急上昇し、本拠地がシンボリックなリグレー・フィールドであることもメディア露出の増加に貢献しています。
もしカブスがナ・リーグ中地区を制し、タッカーが彼らしい好成績を残せば――MVP獲得の可能性は大いにあるでしょう。
ボビー・ウィットJr.(遊撃手、ロイヤルズ)
■ 最高順位:2位(2024年)
昨年のア・リーグMVPは、アーロン・ジャッジの歴史的なシーズンがなければウィットのものだった――そんな声も多くありました。そして「今年こそは」と思いきや、あれ? またジャッジが止まらない…。とはいえ、もしジャッジがどこかでスローダウンすれば、そこにはウィットがしっかりと“王座”を狙っている構図です。
今季の成績は昨年と比べてわずかに落ちているものの、打率は.302を維持し、メジャー最多の二塁打(18本)を記録。現時点ではその二塁打が本塁打に繋がっていない点が惜しいですが、そのパワーは間違いなく健在で、時間の問題ともいえるでしょう。
そして何より、彼はロイヤルズ打線の“心臓部”。チーム全体の成績が予想以上に好調な中で、ウィットがその中心にいるのは明白です。その活躍ぶりは、MVP議論の中で今後も主役であり続けるに違いありません。
引用元:mlb.com