デトロイト発 —コメリカ・パークの観客は、まるでプロレスの試合でスター選手の必殺技を待ち望むような大歓声を上げていた。タイガースのタリク・スクーバルが、ガーディアンズの遊撃手ガブリエル・アリアスを2ストライク・2アウトと追い込み、9回の最後の打者を迎えていた。
スクーバルはすべてを完璧にコントロールしていた――ピッチコム(PitchCom)のイヤーヘッドセットを除いては。
「うるさすぎて、何も聞こえなかったんだ」とスクーバルは試合後に語った。
「(捕手のディロン・ディングラーが)サインを出してたけど、『いや、ちょっと来てくれ』って感じだった。」
マウンド訪問によって観客は一息つき、スクーバルはボリュームボタンを探す余裕を得た。
「音量を最大にしてマウンドに戻ったとき、スタジアムは静かになってた」とスクーバル。
「最大にしたら、今度は“これって打者にも聞こえてるんじゃ?”って思っちゃって(笑)」
たとえアリアスに聞こえていたとしても、関係なかったかもしれない。その直後に投じられた時速102.6マイルの速球に、アリアスはバットを空振り。5対0の完封勝利が決まった。
スクーバルが立ち上がり、その瞬間を全身で受け止めるように感じ取ると、球場は再び大歓声に包まれました。
「自分は感情を出すタイプの選手だし、スタジアムのエネルギーに力をもらってるんだ」とスクーバルは語りました。
「観客全員が立ち上がるような場面では、自分のような立場の選手にとっては、何か特別なことが起こる気がするんだ。」
「絶対に“火の出る”ようなボールが行くとは思ってた。でも、どこに行くかまでは正直わからなかったけどね。」
この一球は、スタットキャスト時代(2015年以降)においてタイガースの投手が記録した最速球となりました。なお、ジョエル・ズマヤは2006年に球場のレーダーガンで非公式ながら103マイルを記録したことが数回あります。
「信じられないよ」と捕手のディロン・ディングラーは語りました。
スクーバルが投じた時速102.6マイルの速球は、2008年に投球追跡システムが導入されて以来、メジャーリーグの先発投手による最速の三振奪取球となりました。
さらに、これはピッチトラッキング導入以降、9回以降に先発投手が投じた最速球でもあります。この記録のこれまでの最速は、元タイガースのジャスティン・バーランダーが2009年7月24日に記録した101.3マイルでした。なお、スタットキャスト時代において、6回以降に102マイル以上を記録した先発投手は他にいません。
「彼が全力でギアを入れたときには、もう限界なんてないよ」と、A.J.ヒンチ監督は称賛しました。
この時の球は、スクーバルの94球目でした。彼はこれにより、タイガースの投手として2年連続で「マダックス(※100球未満での完封勝利)」を達成した2人目となりました。昨年9月10日にケイダー・モンテロがロッキーズ戦で96球完封を記録して以来です。
スクーバルが記録した13奪三振は、マダックスを達成した投手としては史上最多。それまでの記録は12奪三振で、カルロス・カラスコ(2014年)、クリフ・リー(2011年)、サンディ・コーファックス(1964年)が保持していました。
「クールだね」と、スクーバルは一言だけ喜びを語りました。
スクーバルはここ数年、100マイル超の速球を投げることが珍しくなくなってきています。この日までに通算で100マイル以上を記録した球は20球に達しており、昨年6月9日のブリュワーズ戦では101.7マイルの速球も記録しています。ただし、それらはすべて7回以前の登板に限られており、今回のように9回で100マイル超を投げたのは初めてでした。
スクーバルがメジャーで9回のマウンドに立つのは、これがキャリア初めてのことでした。
「球数は十分に管理できていた」と、A.J.ヒンチ監督は語りました。
「今の野球界全体が、投手の扱いにすごく慎重になっているのは確かだし、球数も登板イニング数も以前より減っている。でも時には“今日はこの男の日だ”っていう日がある。そういうときは、彼をマウンドに残しておくべきなんだ。今日は、僕にとってその判断は迷う必要がなかったよ。」
3万7031人の観客が「スクーバル!」と名前を連呼する中、彼は9回のマウンドに上がりました。
「正直、9回の前にちょっと泣きそうになったよ」とスクーバルは振り返ります。
「ふと思ったんだ。“12歳の自分だったら、こんな機会があるなんて信じられなかっただろうな”って。あんなふうにファンが声援を送ってくれること、そしてあの瞬間に自分が立っていること――本当に特別だった。」
これはスクーバルにとっても、そして午前11時30分(東部時間)の試合開始に合わせて早くからコメリカ・パークに足を運んだファンにとっても、新たな記憶となる一日でした。しかも相手は、彼にとって過去最も苦い記憶を残したチームでもありました。
昨年10月のアメリカン・リーグ・ディビジョンシリーズで、レーン・トーマスに逆転満塁ホームランを浴び、プログレッシブ・フィールドが熱狂に包まれたあの試合。スクーバルはその件について、「今も引きずっているわけではない」と言い張りましたが、「それが自分のモチベーションになっている」とも語っています。トーマスのホームランを振り返ることはあると認めたものの、「結果に対して悪夢を見るようなことはない」とのことでした。
そして再戦となった日曜日の最初の対戦では、トーマスが打ったバウンドの高いゴロをスクーバル自身が捕球し、そのまま一塁へ走って自らトーマスをタッチアウトに。これにはガーディアンズの一塁コーチ、サンディ・アロマー Jr. も守備を称賛し、スクーバルは笑みを浮かべました――その一瞬の笑顔こそが、クリーブランド打線が唯一見せた“揺さぶり”だったかもしれません。
スクーバルはガーディアンズの最初の15人の打者を完全に抑え、6回先頭のウィル・ウィルソンに右中間へ二塁打を許すまでノーヒット投球を続けました。結局、ウィルソンがこの日唯一、得点圏に進んだガーディアンズの走者となり、7回にホセ・ラミレスが放ったシングルがもう1本のヒットでした。
「彼はとにかく我々に真っ向勝負を仕掛けてきた」と、ガーディアンズのスティーブン・ヴォート監督は語りました。
「朝11時35分の試合で、97〜99マイルの球を投げ込んでくるんだ。彼は最高だ。今、野球界で最も優れた投手。そして今日、それを証明してみせた。」
ジェイソン・ベック:MLB.comタイガース担当
引用元:mlb.com