佐々木朗希のスプリッターがついに披露された――しかも、予想以上に驚異的な一球だった。
佐々木は火曜日の夜、ドジャースのスプリングトレーニング初登板で圧巻のパフォーマンスを見せたが、その中でも最も注目を集めたのがスプリッターだった。
ドジャースがスプリッターを武器にする投手を揃えていることはすでに知られていた。佐々木、山本由伸、大谷翔平と、ロサンゼルスには世界最高クラスのスプリッターを持つ投手が3人もいる。しかし、佐々木がこの日見せたスプリッターは、また違った特徴を持っていた。
そして、このスプリッターはほぼ打たれることがなかった。
レッズの打者は佐々木のスプリッターに対し、8回スイングして7回空振り。唯一バットに当てた打球も、力のないフライアウトだった。さらに、5奪三振のうち4つはスプリッターで仕留めた。
All 7 Swings & Misses on Rōki Sasaki's Splitter from last night.
— Rob Friedman (@PitchingNinja) March 5, 2025
87% Whiff Rate. 😲 pic.twitter.com/2qm3O0dObi
つまり、佐々木のスプリッターは驚異的だ。 そしてStatcastのデータが、その凄さを証明している。
佐々木のドジャース初登板で際立ったスプリッターの3つの特徴
1) スピン量が極めて低い
スプリッターは一般的にスピン量が少ない球種であり、その「沈み込む」変化によって打者がボールの上を振ってしまう。しかし、佐々木のスプリッターは特にスピン量が低い。
昨シーズンのメジャーリーグにおけるスプリッターの平均スピン量は1,302 rpm(回転数/分)だった。それに対し、佐々木のスプリッターは519 rpmしかなかった。
さらに、この日奪ったスプリッターでの4つの三振の回転数は、570 rpm、542 rpm、403 rpm、584 rpmと極端に低かった。
これは、ほとんどナックルボールのような回転数だ。 佐々木は、通常のスプリッターよりもさらに回転を抑えた「極限のスピンレス・スプリッター」を投げている。
Statcast 3D tracking — Roki Sasaki, butterfly splitter K's from his Dodgers Spring Training debut 🦋
— David Adler (@_dadler) March 5, 2025
86.1 mph / 570 rpm / ⬇️5" IVB
87.3 mph / 542 rpm / ⬇️6" IVB
85.0 mph / 403 rpm / ⬇️7" IVB
85.6 mph / 584 rpm / ⬇️7" IVB pic.twitter.com/RUA5dhCM5O
佐々木はカクタスリーグ初登板で18球のスプリッターを投げた。Statcast時代(2015年以降)において、これまでに1,800試合以上でピッチャーが18球以上のスプリッター(またはフォークボール)を投げたケースがあるが、その中で佐々木のスピン量は歴代最低だった。
Statcast時代におけるシングルゲーム最低スプリッタースピン量
(最低18球投球 / 佐々木のドジャース春季キャンプ初登板を含む)
投手 | スピン量(rpm) | 日付 |
---|---|---|
佐々木朗希 | 519 rpm | 2025年3月4日(スプリングトレーニング) |
エマニュエル・ラミレス | 577 rpm | 2024年7月28日 |
ローガン・ギルバート | 589 rpm | 2024年6月16日 |
ローガン・ギルバート | 615 rpm | 2024年9月19日 |
マイク・ペルフリー | 639 rpm | 2016年5月7日 |
このデータの最も興味深い点は、佐々木のスプリッターが2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の時とは大きく異なる特徴を持っていることだ。
WBCでは、佐々木のスプリッターは「パワースプリッター」の特徴が強く、平均球速91マイル、スピン量約1,100 rpmだった。 しかし、今回のドジャース初登板では、球速は86マイルに落ちたが、スピン量は500 rpm台と大幅に低下していた。
この変化によって、佐々木のスプリッターは、現在MLBで「スピンを抑えたスプリッター」を持つ先発投手たちのスタイルにより近いものになった。
具体的には、マリナーズのスターター陣であるローガン・ギルバート(640 rpm)、ブライス・ミラー(912 rpm)、ジョージ・カービー(946 rpm)のスプリッターに近い。
一方で、同じドジャースの山本由伸(90マイル / 1,326 rpm)や、大谷翔平(89マイル / 1,287 rpm / 2023年)のパワースプリッターとは異なるタイプになっている。
しかし、現時点で佐々木のスプリッターは、マリナーズの投手陣のスプリッターよりもさらにスピン量が低く、現在MLBで最も低スピンのスプリッターとなっている。
2024年シーズンにおいて、佐々木のスプリッターよりもスピン量が低かった唯一の球種は、マット・ウォルドロンのナックルボールだけだった。
Rōki Sasaki, 96mph Fastball & 85mph Splitter, Individual Pitches + Overlay.
— Rob Friedman (@PitchingNinja) March 5, 2025
Good luck. 😳 pic.twitter.com/JDsVOMA6hW
2) 驚異的な落差
佐々木のスプリッターが極端に低スピンであることには、2つの大きな影響がある。その一つが、ボールの異常なまでの落ち方だ。
この特徴によって、佐々木のスプリッターは次の2つの方法で打者を惑わせることができる:
- ストライクゾーン内で意外な軌道を描く(この試合ではスプリッターで2つの見逃し三振を奪った)
- 打者が空振りするほどの急落(ゾーン内から急激に落ちるスプリッターに7回の空振りを記録)

Statcastでは、縦の変化(ドロップ)を測定する2つの方法がある。
- 「総垂直変化(total vertical movement)」 → 投手の手元からホームプレートまでの全体の落下量(重力の影響も含む)
- 「誘発された垂直変化(induced vertical break)」 → 重力の影響を除外し、投球フォームと回転の影響のみでボールがどれだけ落ちるかを測定
どちらの指標で見ても、佐々木のスプリッターはMLBトップクラスの変化量を誇っている。
① 総垂直変化(total vertical movement)
佐々木のスプリッターの平均落差は43インチ(約109cm)。これはMLBのスプリッターの中で昨シーズン最も大きな落差を記録した投手を超えている。
- 2024年MLB最多の落差:41インチ(テイラー・スコット / アストロズ、タイラー・メギル / メッツ)
② 誘発された垂直変化(induced vertical break)
佐々木のスプリッターは、投球によって5インチ(約13cm)の落差を生み出している。これは、昨シーズンMLBで最も大きな数値を記録した投手をも上回る。
- 2024年MLB最多の誘発垂直変化:4インチ(テイラー・スコット)
- 2位:3インチ(タナー・ハウク / レッドソックス)
つまり、佐々木のスプリッターはすでにMLBのエリートレベルの変化量を誇っている。そして、これはまだスプリッターの能力の「半分」に過ぎない。
3) 両方向に変化するスプリッター
ここまで紹介したのはスプリッターの縦の変化だったが、佐々木のスプリッターにはもう一つ大きな特徴がある。それが「横の変化」だ。
通常、オフスピード系の球種(スプリッター、フォーク、チェンジアップ、スクリューボールなど)は投手の腕側(アームサイド)に変化するのが一般的だ。しかし、佐々木のスプリッターは左右両方向に動く。
多くのスプリッターはアームサイド(右投手なら右方向)に沈むが、佐々木のスプリッターは時にグラブサイド(左方向)にも変化する。
佐々木のスプリッターの変化(対レッズ戦 / 3月4日)

スプリッターの横の変化量はかなり広範囲に及んでおり、以下のような特徴が見られた。
- アームサイドに動くスプリッター → 速球と同じ方向に変化し、沈み込みが大きい
- グラブサイドに動くスプリッター → スライダーのような軌道を描くが、より速く、変化量がやや少ない
- すべてのスプリッターが同じリリースポイントから放たれるため、打者にとって判別が非常に困難

左打者へのスプリッターの使い方
佐々木は左打者に対して、スプリッターをカット気味に使う傾向があった。
- 対レッズの左打者へのスプリッターの50%がグラブサイド(左方向)に変化(最大6インチの変化)
- このグラブサイドへの変化で2つの三振を奪取(TJ フリードル、カルロス・ホルヘ)
右打者へのスプリッターの使い方
一方、右打者には「通常のスプリッター」の使い方が中心だった。
- 10球のうち8球がアームサイド、または真下へ変化
- 最大7インチのアームサイド変化を記録(オースティン・ウィンズへの三振)
- ただし、右打者に対しても一部カット系のスプリッターを投げ、マット・マクレインを見逃し三振に仕留めた
デーブ・ロバーツ監督のコメント
「彼のスプリッターは速い。そして、見た目はフォーシームと同じなんだ」とロバーツ監督は試合後に語った。
「あるものは真下に落ちるし、あるものは左へ行く。あるものは右へ行く。どこに動くのか分からないから、しっかり捉えるのが非常に難しい。」
まとめ:MLBの「次なる魔球」
佐々木のスプリッターが両方向に変化することは、非常に珍しい現象であり、打者にとって極めて厄介な球種となっている。
これは2023年のWBCでも見せていた特徴であり、そのときから「世界最高クラスの球種」と評価されていた。
そして、ドジャースのスプリングトレーニング初登板で見せたスプリッターも、依然として「地球上で最も打ちにくい球の一つ」であり続けている。
MLBの「次なる伝説の球種」が誕生したのかもしれない。
デービッド・アドラー:MLB.com記者
引用元:mlb.com