佐々木朗希のスプリッターがMLBの新たな名球となり得るか

佐々木朗希 MLB ドジャース

佐々木朗希のスプリッターがついに披露された――しかも、予想以上に驚異的な一球だった。

佐々木は火曜日の夜、ドジャースのスプリングトレーニング初登板で圧巻のパフォーマンスを見せたが、その中でも最も注目を集めたのがスプリッターだった。


ドジャースがスプリッターを武器にする投手を揃えていることはすでに知られていた。佐々木、山本由伸、大谷翔平と、ロサンゼルスには世界最高クラスのスプリッターを持つ投手が3人もいる。しかし、佐々木がこの日見せたスプリッターは、また違った特徴を持っていた。

そして、このスプリッターはほぼ打たれることがなかった。
レッズの打者は佐々木のスプリッターに対し、8回スイングして7回空振り。唯一バットに当てた打球も、力のないフライアウトだった。さらに、5奪三振のうち4つはスプリッターで仕留めた。

つまり、佐々木のスプリッターは驚異的だ。 そしてStatcastのデータが、その凄さを証明している。

佐々木のドジャース初登板で際立ったスプリッターの3つの特徴

1) スピン量が極めて低い

スプリッターは一般的にスピン量が少ない球種であり、その「沈み込む」変化によって打者がボールの上を振ってしまう。しかし、佐々木のスプリッターは特にスピン量が低い。

昨シーズンのメジャーリーグにおけるスプリッターの平均スピン量は1,302 rpm(回転数/分)だった。それに対し、佐々木のスプリッターは519 rpmしかなかった。

さらに、この日奪ったスプリッターでの4つの三振の回転数は、570 rpm、542 rpm、403 rpm、584 rpmと極端に低かった。

これは、ほとんどナックルボールのような回転数だ。 佐々木は、通常のスプリッターよりもさらに回転を抑えた「極限のスピンレス・スプリッター」を投げている。

佐々木はカクタスリーグ初登板で18球のスプリッターを投げた。Statcast時代(2015年以降)において、これまでに1,800試合以上でピッチャーが18球以上のスプリッター(またはフォークボール)を投げたケースがあるが、その中で佐々木のスピン量は歴代最低だった。

Statcast時代におけるシングルゲーム最低スプリッタースピン量

(最低18球投球 / 佐々木のドジャース春季キャンプ初登板を含む)

投手スピン量(rpm)日付
佐々木朗希519 rpm2025年3月4日(スプリングトレーニング)
エマニュエル・ラミレス577 rpm2024年7月28日
ローガン・ギルバート589 rpm2024年6月16日
ローガン・ギルバート615 rpm2024年9月19日
マイク・ペルフリー639 rpm2016年5月7日

このデータの最も興味深い点は、佐々木のスプリッターが2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の時とは大きく異なる特徴を持っていることだ。

WBCでは、佐々木のスプリッターは「パワースプリッター」の特徴が強く、平均球速91マイル、スピン量約1,100 rpmだった。 しかし、今回のドジャース初登板では、球速は86マイルに落ちたが、スピン量は500 rpm台と大幅に低下していた。

この変化によって、佐々木のスプリッターは、現在MLBで「スピンを抑えたスプリッター」を持つ先発投手たちのスタイルにより近いものになった。
具体的には、マリナーズのスターター陣であるローガン・ギルバート(640 rpm)、ブライス・ミラー(912 rpm)、ジョージ・カービー(946 rpm)のスプリッターに近い。

一方で、同じドジャースの山本由伸(90マイル / 1,326 rpm)や、大谷翔平(89マイル / 1,287 rpm / 2023年)のパワースプリッターとは異なるタイプになっている。

しかし、現時点で佐々木のスプリッターは、マリナーズの投手陣のスプリッターよりもさらにスピン量が低く、現在MLBで最も低スピンのスプリッターとなっている。

2024年シーズンにおいて、佐々木のスプリッターよりもスピン量が低かった唯一の球種は、マット・ウォルドロンのナックルボールだけだった。

2) 驚異的な落差

佐々木のスプリッターが極端に低スピンであることには、2つの大きな影響がある。その一つが、ボールの異常なまでの落ち方だ。

この特徴によって、佐々木のスプリッターは次の2つの方法で打者を惑わせることができる:

  1. ストライクゾーン内で意外な軌道を描く(この試合ではスプリッターで2つの見逃し三振を奪った)
  2. 打者が空振りするほどの急落(ゾーン内から急激に落ちるスプリッターに7回の空振りを記録)

Statcastでは、縦の変化(ドロップ)を測定する2つの方法がある。

  • 「総垂直変化(total vertical movement)」 → 投手の手元からホームプレートまでの全体の落下量(重力の影響も含む)
  • 「誘発された垂直変化(induced vertical break)」 → 重力の影響を除外し、投球フォームと回転の影響のみでボールがどれだけ落ちるかを測定

どちらの指標で見ても、佐々木のスプリッターはMLBトップクラスの変化量を誇っている。

① 総垂直変化(total vertical movement)

佐々木のスプリッターの平均落差は43インチ(約109cm)。これはMLBのスプリッターの中で昨シーズン最も大きな落差を記録した投手を超えている。

  • 2024年MLB最多の落差:41インチ(テイラー・スコット / アストロズ、タイラー・メギル / メッツ)

② 誘発された垂直変化(induced vertical break)

佐々木のスプリッターは、投球によって5インチ(約13cm)の落差を生み出している。これは、昨シーズンMLBで最も大きな数値を記録した投手をも上回る。

  • 2024年MLB最多の誘発垂直変化:4インチ(テイラー・スコット)
  • 2位:3インチ(タナー・ハウク / レッドソックス)

つまり、佐々木のスプリッターはすでにMLBのエリートレベルの変化量を誇っている。そして、これはまだスプリッターの能力の「半分」に過ぎない。


3) 両方向に変化するスプリッター

ここまで紹介したのはスプリッターの縦の変化だったが、佐々木のスプリッターにはもう一つ大きな特徴がある。それが「横の変化」だ。

通常、オフスピード系の球種(スプリッター、フォーク、チェンジアップ、スクリューボールなど)は投手の腕側(アームサイド)に変化するのが一般的だ。しかし、佐々木のスプリッターは左右両方向に動く。

多くのスプリッターはアームサイド(右投手なら右方向)に沈むが、佐々木のスプリッターは時にグラブサイド(左方向)にも変化する。

佐々木のスプリッターの変化(対レッズ戦 / 3月4日)

スプリッターの横の変化量はかなり広範囲に及んでおり、以下のような特徴が見られた。

  • アームサイドに動くスプリッター → 速球と同じ方向に変化し、沈み込みが大きい
  • グラブサイドに動くスプリッター → スライダーのような軌道を描くが、より速く、変化量がやや少ない
  • すべてのスプリッターが同じリリースポイントから放たれるため、打者にとって判別が非常に困難

左打者へのスプリッターの使い方

佐々木は左打者に対して、スプリッターをカット気味に使う傾向があった。

  • 対レッズの左打者へのスプリッターの50%がグラブサイド(左方向)に変化(最大6インチの変化)
  • このグラブサイドへの変化で2つの三振を奪取(TJ フリードル、カルロス・ホルヘ)

右打者へのスプリッターの使い方

一方、右打者には「通常のスプリッター」の使い方が中心だった。

  • 10球のうち8球がアームサイド、または真下へ変化
  • 最大7インチのアームサイド変化を記録(オースティン・ウィンズへの三振)
  • ただし、右打者に対しても一部カット系のスプリッターを投げ、マット・マクレインを見逃し三振に仕留めた

デーブ・ロバーツ監督のコメント

「彼のスプリッターは速い。そして、見た目はフォーシームと同じなんだ」とロバーツ監督は試合後に語った。
「あるものは真下に落ちるし、あるものは左へ行く。あるものは右へ行く。どこに動くのか分からないから、しっかり捉えるのが非常に難しい。」

まとめ:MLBの「次なる魔球」

佐々木のスプリッターが両方向に変化することは、非常に珍しい現象であり、打者にとって極めて厄介な球種となっている。

これは2023年のWBCでも見せていた特徴であり、そのときから「世界最高クラスの球種」と評価されていた。

そして、ドジャースのスプリングトレーニング初登板で見せたスプリッターも、依然として「地球上で最も打ちにくい球の一つ」であり続けている。

MLBの「次なる伝説の球種」が誕生したのかもしれない。

デービッド・アドラー:MLB.com記者
引用元:mlb.com

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