【徹底分析】これが大谷翔平のパワーの秘密?

大谷翔平 ドジャース MLB

他のスター級スラッガーたちと比べて、大谷翔平が異なる点は何でしょうか?それは単に本塁打の本数でも、飛距離の爆発力でもありません。彼がどのようにして本塁打を打っているかが、最大の違いです。

現代MLBのパワーヒッターたちの合言葉は「ボールを前で捉えろ」というものです。つまり、バットのバレル(芯)をボールにぶつけるのは、ホームプレートの前、自分の体よりも前で行うということです。ムーキー・ベッツ、ホセ・アルトゥーベ、ノーラン・アレナドのような打者たちは、この方法で本塁打を打ちます。これによりバットの加速時間を長く取ることができ、ボールを引っ張って高く打ち上げ、本塁打にできるのです。


一方で、ボールを前で捉えることに依存せず、「ボールを引きつけて打つ」ことで全方向へのパワーを発揮する、選ばれし少数のエリート打者も存在します。アーロン・ジャッジ、フレディ・フリーマン、フアン・ソトがその代表格です。

そして、その先頭に立つのが大谷翔平です。

2年連続でMVPを獲得し、2025年シーズンの3年連続MVPという偉業に挑む大谷は、火曜日に東京シリーズでカブスと対戦するドジャースの一員としてシーズンをスタートさせます。彼はメジャーリーガーの中でも、特にスラッガーたちの中で「もっとも深いポイントでコンタクトする打者」の一人なのです。

Statcast(スタットキャスト)は現在、打者の立ち位置や打球のコンタクトポイントなど、膨大なデータを追跡しています。打者がバッターボックス内のどこに立っているか、そしてホームベースの前縁や自分の身体の中心からどれくらいの位置でボールを捉えているかまで測定されています。これらのデータは2025年の開幕にあわせてBaseball Savantで公開される予定ですが、今回はその一部を先取りしてご紹介します。

大谷翔平の「深いコンタクトポイント」こそが、彼の驚異的な全方向パワーの秘密です。

他の多くのメジャーリーガーよりも長くボールを見極めることができ、それでも十分なバットスピード、危険なスイング軌道、そして卓越したミート技術を駆使して、球場のあらゆる方向に本塁打を放つことができるのです。

平均的なメジャーリーガーは、ホームベースの前方約2.4インチ(約6cm)の位置でボールを捉えています。一方で大谷は、ホームベースの後方3.7インチ(約9.4cm)――つまり平均より6インチ以上も深い位置でコンタクトしています。

また、平均的な打者は自分の身体から前方30.2インチ(約76.7cm)の位置でコンタクトしますが、大谷はわずか25.7インチ(約65.3cm)――こちらも平均より約5インチ(約12.7cm)深い位置で捉えています。

これほど深い位置でボールを捉え、それでいて2024年シーズンに54本塁打、99本の長打を記録できたのは、大谷が「エリート級のバットスピード」を持っているからです。昨季の大谷のバットスピードは平均76.3マイル(約122.8km/h)で、MLB全体でトップ10にランクインしました。Statcastが定義する「75マイル超=高速スイング」基準を超えた打者は25人しかおらず、大谷はその一人でした。

そしてこの25人の中でも、大谷は群を抜いて「もっとも深いコンタクトポイント」を誇っていました。

2024年、バットスピードが75マイル(約120.7km/h)以上の打者のうち、もっとも深いコンタクトポイントを記録した選手(※ホームベース前縁からの距離)

  • 大谷翔平:ホームベースから3.7インチ(約9.4cm)後方
  • マット・チャップマン:1.9インチ(約4.8cm)後方
  • ホルヘ・ソレア:1.3インチ(約3.3cm)後方
  • ライアン・マウントキャッスル:0.3インチ(約0.8cm)後方
  • アーロン・ジャッジ:0.2インチ(約0.5cm)後方
  • ジョー・アデル:ホームベースと同じ位置(±0)
  • フアン・ソト:1.1インチ(約2.8cm)前方

大谷は、高速バットスピードと深いコンタクトポイントの組み合わせにより、信じられないような本塁打を生み出します。

たとえば、6月5日にパイレーツの剛腕ポール・スキーンズとの初対決で、100.1マイル(約161km/h)の速球を完璧に捉え、打球速度105.6マイル(約170km/h)、飛距離415フィート(約126.5m)の本塁打をセンターに放ちました。これはまさに、大谷の規格外の能力を象徴する一打でした。


このスイングで、大谷はスキーンズの時速100マイル(約161km/h)の速球に対し、ホームベース前縁から約3インチ(約7.6cm)後方でコンタクトしました。しかし、スイングスピードは80マイル(約128.7km/h)に達しており、これはバットスピードの中でも最速クラスです。

この圧倒的なスピードにより、大谷は打球をセンター方向へ力強く運び、本塁打にしました。

以下は、Statcastによる大谷のスイング軌道のトラッキング映像です。インパクトの瞬間までのスイングの動きが視覚的に捉えられており、大谷のスイングがいかに効率的かつ爆発的であるかが分かります。

もう一つの例がこちらです。6月16日、ドジャー・スタジアムでの試合で、大谷翔平は打球速度114.3マイル(約184km/h)、飛距離451フィート(約137メートル)の特大本塁打を左中間方向に放ちました。


この時は、相手投手ブレイディ・シンガーが投じた92.5マイル(約149km/h)の真ん中高めの速球を、大谷がしっかりと「待って」捉えたものでした。なんと、ボールがホームベースから約4インチ(約10cm)後方まで到達してから、大谷はスイング。そして、バットスピードは81.1マイル(約130km/h)に達し、その圧倒的なパワーでスタンドまで運びました。

タイミングを極限まで引きつけ、それでもこれだけのスピードと飛距離を生み出せる――まさに異次元の打撃能力です。

もう一例を挙げましょう。ドジャー・スタジアムでの試合で、大谷翔平は打球速度110.6マイル(約178km/h)、飛距離464フィート(約141メートル)の本塁打を再び左中間方向へ放ちました。


この一打は、左対左の対戦で、ブレーブスの救援左腕A.J.ミンターから放たれたものでした。しかも、大谷はインサイドアウトのスイングで対応。注目すべきは、ミンターの投球がホームベースから約7インチ(約18cm)も深い位置で、大谷のバレルに接触した点です。それでもバットスピードは76.9マイル(約124km/h)に達し、シーズン最長級のホームランを逆方向に叩き込みました。

極限まで引きつけて、かつ逆方向へこの飛距離――まさに規格外のパワーとバットコントロールが成し得た一撃です。

こうしたスイングの積み重ねにより、大谷翔平の打球分布図(スプレーチャート)は非常に美しいものとなっています。レギュラーシーズンとポストシーズンを通じて、大谷が放った57本の本塁打と103本の長打のうち、およそ半数は引っ張った打球でした。残りの半分は、センター方向や逆方向に広く分散しています。

もし、大谷のコンタクトポイント(打球がバットに当たる位置)がもっと前だったなら、これほどバランスの取れた打球分布にはなっていなかったでしょう。

さらに特筆すべきは、ドジャースのワールドシリーズ制覇の道中で放った24本のホームランと53本の長打のほとんどが、ホームベース上またはベースの後方でのコンタクトから生まれている点です。これはいずれもメジャーリーグ全体で最多。そして予想通り、それらの打球の多くはセンターから逆方向へ飛んでいます。

大谷の驚異的なバットスピードと深いコンタクトポイントによって生み出される全方向への長打力は、まさに唯一無二と言えるでしょう。

2024年(レギュラーシーズン+ポストシーズン)
ホームベース上またはその後方でのコンタクトによる本塁打数ランキング

  • 大谷翔平:24本
  • アーロン・ジャッジ:24本
  • マーセル・オズナ:24本
  • ウィリー・アダメス:16本
  • フアン・ソト:14本
  • カイル・タッカー:13本
  • ポール・ゴールドシュミット:13本
  • マーク・ビエントス:13本
  • アンドリュー・マカッチェン:13本
  • ケリー・カーペンター:13本

2024年(レギュラーシーズン+ポストシーズン)
ホームベース上またはその後方でのコンタクトによる長打数(本塁打含む)ランキング

  • 大谷翔平:53本
  • マーセル・オズナ:43本
  • アーロン・ジャッジ:39本
  • ウィリー・アダメス:34本
  • ジャレン・デュラン:33本
  • ポール・ゴールドシュミット:33本
  • フレディ・フリーマン:31本
  • マット・チャップマン:31本
  • フアン・ソト:29本
  • J.D.マルティネス:28本

大谷翔平の「打球を深く引きつけて打つ」アプローチは、エース級投手相手にも効果的です。スキーンズ以外にも、大谷は昨季、マックス・フリード、フレディ・ペラルタ、マイケル・キングから、いずれもホームベース後方でのコンタクトからホームランを放っています。

さらに、ポストシーズンでのディラン・シーズからの劇的な本塁打も、右方向へ引っ張った一発でしたが、これも深いコンタクトポイントから生まれた一撃でした。

多くの場合、大谷翔平はボールをじっくり見極めて引きつけ、そこから高速スイングを解き放ち、打球をロケットのように飛ばします。昨シーズン、大谷がホームベース後方でコンタクトした本塁打のうち、打球速度が110マイル(約177km/h)以上を記録したものが10本ありました。


これらのスイングのいくつかは、以下のようなものでした:

さて、ここまでの話のポイントは、「大谷翔平のようにボールを引き付けて打つスタイルが“最高”の打ち方だ」と言いたいわけではありません。実際、多くのMLBスーパースターたちは、ボールを前で捉えるスタイルで結果を出しています。たとえば、ムーキー・ベッツ、フリオ・ロドリゲス、マニー・マチャド、ヨルダン・アルバレス、ブライス・ハーパー、ガナー・ヘンダーソンなど、名だたる選手たちがその代表です。

それでも、大谷にとって「ボールを引き付けて打つ」スタイルは、彼の代名詞であり、また他の偉大な広角打法の打者たちにも共通する“個性”なのです。

だから、2025年シーズンに大谷翔平が左中間に豪快なホームランを放つのを目にしたとき、それは偶然ボールを引き付けた結果ではないことが分かるはずです。大谷がプレートより後ろでボールを捉えているのは、速球に振り遅れてなんとかバットを当てたわけではありません。それは、彼のMVP級の打撃アプローチの“真骨頂”なのです。

デビッド・アドラー:MLB.com記者
引用元:mlb.com

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次