シカゴ — 昨シーズン、初めてリグリー・フィールドの観客を体感した際、今永昇太は「カブスファンのエネルギッシュな声援を目覚まし時計の音にしたい」と冗談交じりに語っていた。しかし、このアイデアを本気で考えれば考えるほど、ある問題に気づいたという。
「もし本当にそうしたら、球場に遅刻すると思います」と今永は金曜の午後、通訳のエドウィン・スタンベリーを介して語った。「歓声をずっと聞いていたくなっちゃうから。」
今や今永は、カブスファンについて“学んでいる”立場ではなくなった。ファンの側もまた、今永がマウンドに上がるときにどんなショーが始まるのかをよく知っている。そして迎えた金曜のホーム開幕戦――今永は球場を包む歓声と冷たい空気を全身で受け止めながら、堂々たるパフォーマンスを披露し、カブスをパドレス相手の3対1の勝利へと導いた。
試合前、カブスのクレイグ・カウンセル監督は、ホーム開幕戦の雰囲気について「昨年とは何か違う気持ちがあるか?」と尋ねられると、思わず笑みを浮かべた。
「同じ雰囲気にしようとしたよ――ショウタに投げてもらったからね」と、カウンセルは冗談交じりに答えた。
ちょうど1年前、4月1日のホーム開幕戦で今永昇太はロッキーズ相手に6回無失点の快投を見せ、5対0の勝利を飾った。その試合が、華々しいルーキーイヤーの幕開けだった。
カブスファンにとっては、入団会見の時点で今永の人柄に魅了されていたが、この試合で初めてその投球を目の当たりにし、やがて彼はナ・リーグのサイ・ヤング賞や新人王の候補にも挙がる存在へと成長していった。
今やファンも、そして対戦相手も、今永という投手をよく知るようになっている。
「ただひと言で言えば、彼は“素晴らしい投手”だよ」とカウンセル監督は語った。
今季の今永は開幕からいきなりタフな相手と対峙している。東京シリーズの開幕戦では前年度ワールドシリーズ王者のドジャースを相手に先発し、その後は強打のダイヤモンドバックス打線と敵地で対戦。そして金曜日には、開幕7連勝と勢いに乗ってシカゴ入りしたパドレスを迎え撃った。
その中で今永は、見事2勝目を挙げ、防御率0.98という圧巻の数字を残しながら、試合後にはスタンディングオベーションを受けてマウンドを降りた。
「ショウタがいると、俺たちは守備でしっかりプレーするチャンスがもらえる」と中堅手のピート・クロウ=アームストロングは語った。
「ショウタは“ショウタらしい”投球をしてくれた。僕らを試合に巻き込んでくれるし、それ以上に望むことはないよ。」
それは2回の守備でも見られたシーンだった。ザンダー・ボガーツが今永の投じた球を左中間方向へ高く弾き返し、強い風に乗って打球はギャップを越えフェンス際まで到達。だが、ピート・クロウ=アームストロングが瞬時に反応し、時速28フィート(約8.5メートル/秒)というスプリントスピードで右方向へ猛ダッシュ。スタットキャストによると捕球確率30%という難しい打球を、レンガのフェンスとまだ葉のついていないアイビーのつるに激突しながらもキャッチした。
マウンド上の今永は、そのプレーを見届けた瞬間、思わず顔をしかめた。中堅手がフェンスに激突してまでプレーをしてくれたことに、感謝と心配が入り混じった表情を浮かべていた。
「打たれた瞬間は、『ああ、これはツーベースかそれ以上かな』と思いました」と今永は振り返る。
「でも突然、ピートが現れてキャッチしたんです。本当に素晴らしいプレーでした。」
カブス打線は、初回にニコ・ホーナーの押し出し四球で先制点を挙げ、さらに5回には2点を加える猛攻を見せた。
その5回の場面では、ジャスティン・ターナーが遊撃へのゴロを放ち、ザンダー・ボガーツがこれをさばいて二塁でアウトを狙ったが、鈴木誠也がスライディングで間一髪セーフに。これによりターナーには勝ち越し打が記録された。
このプレーは、今季のカブスがチーム全体で取り組んでいる「積極的な走塁」の好例のひとつとなった。
「セイヤのあのプレーは素晴らしかったね」とカウンセル監督は称賛した。
「細部への意識が本当に素晴らしい。」
それだけで、今永にとっては十分な援護だった。
この日の今永は、8回途中まで投げてわずか1失点と圧巻の内容。7回1/3を投げ、カブスの勝利に大きく貢献した。
唯一の“キズ”となったのは3回。パドレスの捕手マルティン・マルドナードが左翼のフェンス上部にあるバスケットへ打球を運び、ソロ本塁打を許した場面だった。ちなみにこのマルドナード、試合前時点でキャリア通算の長打率は.343と、パワータイプとは言いがたい打者だった。
この日の勝利で今永は4奪三振・無四球を記録。今季ここまで3試合に先発し、合計18回1/3を投げてわずか自責点2という圧倒的な安定感を見せている。
ちなみに昨年も、カブスでのキャリアをスタートさせた最初の3登板で15回1/3を投げ、失点は自責点なしの1点のみと、まさに“再現”とも言える立ち上がりを見せている。
そんな好投の背景には、ファンの存在があると今永は語る。
「観客の歓声を聞くと、それが自分にとって“もう一枚の鎧”のような感覚になるんです。自分を守ってくれるような、そんな安心感がある。だから本当にファンの皆さんには感謝しています」と今永は語った。
ジョーダン・バスチャン:MLB.comカブス担当
引用元:mlb.com