ロサンゼルスに住む11歳の少年がクリスマスリストに書いたのは、たったひとつの願い――2024 Topps Chrome Updateのホビーボックスだった。しかし、24パック入りのボックスは運が良くても約320ドルと高価なため、両親は「そのプレゼントが唯一のクリスマスプレゼントになる」と伝えた。
少年はその条件を受け入れた。
そして迎えたクリスマスの朝。少年はツリーの下にあったそのプレゼントへ一直線に向かい、パックを開封し始めた。午前6時頃、5パック目を開けたとき、彼はまさにクリスマスの奇跡とも言えるカードを手にした――1/1枚限定、ポール・スキーンズのMLBデビュー・パッチ直筆サインカードだった。
そう、あのカードだ。昨年末に話題となり、幸運な発見者には高額な取引や、パイレーツが提示した本拠地バックネット裏のシーズンチケット30年分といった報酬が待っているかもしれないと噂された、まるで宝くじのようなカードである。
ただし、少年が引き当てたのは実際のカードではなく、「レデンプション(引換)カード」だった。これはTopps社に送ることで、後日、本物のカードが届けられる仕組みだ。そのため、最初は少年の父親も何が起こったのかすぐには理解できなかった。レデンプションカードは、チェックリストや補助カードのように見えることもあるからだ。
しかし、少年はすぐに自分の手にしたものが何なのかを理解していた。
「衝撃でした」
少年はThe Athleticの独占インタビューでそう語った。
しかも、世間で大きな話題となっていたスキーンズのカードが目当てでボックスを欲しがったわけではなかった。
「まさか自分が引くなんて思ってもいませんでした」と少年は語る。「大手のブレーカー(大量開封を行うコレクター)が当てるものだと思っていました」 だからこそ、父親に「パパ、ポール・スキーンズを引いたよ」と言ったとき、父の反応はこうだった。
「そんなわけないだろう」
当然、父親は信じなかった。
「それでカードを光に当ててみたら、『なんてこった、これ本物かもしれない』ってなったんです」と父親はThe Athleticに語った。「最初は呆然として、その後に興奮して、それからはもう言葉が出なかったですね」
父親はこの出来事の重大さを理解し、それが公になることで家族に降りかかる注目を考えたとき、保護者としての責任ある行動を取ることを決めた。彼はいくつかのオークションハウスに連絡を取りつつ、家族の匿名性を守ることに尽力した。
名前が公にならないようにすること――特に11歳の息子が一躍有名になることを避けるのは、単に世間の注目を避けるためだけではなかった。家族の安全を守るためでもあり、さらに、最近の大規模な山火事で生活が一変した地域住民に対して、過度に幸運を誇示したくないという思いもあった。
「この地域の人々にとって、本当に辛い時期なんです」と少年の母親はThe Athleticに語った。
「『ゴールデンチケットを手に入れた!』なんて言いながら歩き回るような時じゃないんです」
家族はクリスマス後すぐにレデンプション(引換)カードをTopps社へ送付した。それから約3週間後、Toppsは「11歳の少年がこの貴重なカードを引き当てた」と発表。しかしその間も、家族は匿名性を維持し続けた。
父親が連絡を取ったオークションハウスのひとつ、Fanatics Collectは、このカードを3月にオークションへ出品予定だ。さらに、このカードはPSAの鑑定で最高評価の「10」を獲得している。
また、パイレーツが提示した「30年分のシーズンチケット」との交換オファーについて、家族は辞退することを決めた。理由は単純で、ロサンゼルス在住のため、地理的に通うのが難しいからだ。ただし、ピッツバーグの試合を観に行く可能性については父親も示唆している。しかし、もしその旅行が公になれば匿名性が失われる可能性もあり、慎重にならざるを得ない。
この一連の秘密主義的な対応は、一部のコレクターコミュニティ内で「本当に実在する話なのか?」という憶測を生むことにもなった。「全てが仕組まれた茶番ではないか?」という疑念すら持たれるほどだった。
実際、Fanatics CollectiblesのCEOであるマイク・マハン氏ですら、この少年の身元を知らないという。
「今回のケースは、間違いなく今年、あるいは世紀最大級の話題となったカードのひとつでした」とマハン氏はThe Athleticに語った。
「11歳の息子を持つ父親が、プライバシーを守りたいと考えたのも当然です。私たちは、彼が安心して取引できるよう協力したかったのです」
業界の専門家によれば、このスキーンズのカードはオークションで7桁(100万ドル以上)に達する可能性があるという。しかし、その巨額の金額にはまったく関心を示していないようだ。
「カードを引き当てた瞬間、息子は誰からも促されることなく、ほぼ数秒以内に『家族、特に兄弟とお金を分けたい』と決めていました」と父親はThe Athleticに語った。
「なので、売上を息子と兄弟で分け、それを教育のために投資することにしました」
また、Fanaticsはオークションで得た利益を、火災復興支援を行う地元の慈善団体へ寄付する予定だという。
こうしてすべてが終わったとき、この11歳の少年と家族には、オークションの売上金、少しの経済的安定、そして2024年のクリスマスの信じられないような思い出が残ることになる。
その朝、事態が急展開していく中で、母親は息子に「この出来事を日記に書いて、未来の自分のために記録しておくといいよ」とアドバイスした。
少年はそれを、まさに11歳らしい方法で書き残した。
「僕の脳みそがうんちした」
最高の一言だ。
「それを世界中の人に伝えるとして、本当に『僕の脳みそがうんちした』って言いたいの?」と父親は息子に尋ねたという。
「すると、彼はニヤッと笑いました。正直、それが彼にとって一番のお気に入りの部分だったんじゃないかと思います」
ジェイソン・フォスター:MLB.com記者
引用元:mlb.com